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デザイナーに訊く「あのモデルのデザインワーク」 #1 KENSINGTON Ⅱ ―製法編―

2020.09.14

SHETLANDFOXの歴代モデルを掘り下げて紐解く連載。ファッション好きでもメンズシューズのことは実はよく知らない…そんなブランドSP担当者E子が、開発にまつわるここだけの話をシューズデザイナーから聞き出します!


E子 ケンジントンⅡ、今回が最終回になりました。ついに要となる製法についてお伺いします。

丸山 多くのシェットランドフォックスはグッドイヤーウエルト式製法で作られているのに対し、このケンジントンⅡはウエルトマッケイ式製法を採用しています。グッドイヤーとマッケイの良いところを合わせた、ケンジントンⅡを作るのには不可欠な製法です。

E子 グッドイヤーとマッケイ、それぞれの良さ、特徴はどういったところですか?

丸山 まずこの靴の踏まずより前からつま先にかけてがグッドイヤーウエルト式製法の部分。約6mmのコルクが中底の下に入っていて、履くほどに足に馴染んでいきます。またそのコルクの厚みによって歩いたときの地面からの突き上げが軽減されます。
マッケイ式製法の部分は踏まずからかかとにかけて。マッケイの良さは構造的に細革を使用しないところで華奢で美しいシルエットを作れること。ケンジントンをデザインするにあたり、メリハリのある木型を生かす製法として、この二つの良さを併せ持つウエルトマッケイ式製法が打ってつけなのです。

E子 ここで木型の話題に戻るとは。木型と製法は密接な関係にあるんですね!

丸山 靴をよく見てください。踏まずより前からつま先にかけてはコバに細革があります。でも踏まずからかかとにかけてはマッケイで作られているため細革がありませんね。細革のない分ウエストにあたる部分を絞って細く見せることができるんです。横から見てもウエスト部分がうすいでしょう。

E子 確かにそうですね。

丸山 靴の中をのぞくと、縫い糸が見えます。これがマッケイ式製法の証です。どうですか?外側と内側の縫い目の幅からも、このくびれが細いことがわかるでしょう。ここまで絞ることはマッケイ式製法でしかできません。それにちょっとした遊び心ですが、あえて半敷を短くしてこの縫い糸を見せているんですよ。こだわったところはまだまだあります。

E子 これ以外にもまだあるんですか?

丸山 靴の底面です。

E子 底にまで…。

丸山 この踏まず部分ですが、これはフルオーダーのビスポークシューズによく見られるフィドルバックという意匠です。サイドがシュッと細くなって中央は盛り上がっているでしょう?この盛り上がった山の中にかまぼこ型にしたコルクとシャンクが入っているんですよ。見えないところにも、このように抑揚をつけて高級感を演出しています。
それとピッチドヒールも忘れてはいけないケンジントンの特徴です。
ウェスタンブーツのように、かかとから接地面にかけて細くシェイプしています。このラインにはとくにガイドのようなものはなく、職人の勘ひとつで削られています。一足一足、微妙に差があり、それも味わいの一つといえるでしょう。

E子 手作業ならではですね。ではこのピッチドヒールにした理由はなんですか?

丸山 やはり一言で言うと高級感を出したいからです。かかとから捉えた時の、アッパーからヒールの流れるような連続した曲線美。アッパーのデザインに合わせてヒールもエレガントな作りにしたいと考えました。

E子 靴の中にチラ見えするマッケイの縫い糸といい、このフィドルバックやピッチドヒールといい、隠れたところにも細かいこだわりが満載ですね。

丸山 そうですね。多様なビスポークシューズの意匠をどれだけ既製のレディメイドシューズに落とし込めるかとことん突き詰め、僕のやりたいことを全部盛り込みました。反対意見もあったのですが、SHETLANDFOXブランドを代表するフラッグシップモデルを作りたかったので、妥協はせず、交渉し続け関係部門を口説き落としました。この靴に関わる各部門のみなさんのおかげでケンジントンが生まれ、一番の売れっ子になってくれたのが本当にうれしいです。



ケンジントンⅡ  担当デザイナー
丸山 睦


実家が家電販売店ということもあり、学生時代は家電デザインを専攻。機能から考える「形」や、使いやすさから考える「形」に興味があります。靴も素材の進化が激しいのでデザインが楽しいですね。


※記事の内容、商品スペック、価格等の情報は掲載時点のものです。

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